
開催53回目を迎えた"サローネ・デル・モービレ・ミラノ(サローネ国際家具見本市)"。通称"ミラノサローネ"で知られるこの世界的なイベントは、家具・インテリアを中心に、隔年でキッチン、バスルーム、照明の見本市が同時開催されるほか、ミラノの街じゅうで多彩なイベントが開催され、世界の今を垣間見ることのできるデザインの祭典です。
世界を体感し、日本の住まいのこれからを考えるべく、リビタを代表し数名のスタッフが現地へと赴きました。ご案内いただいたのは、富山と東京をベースに活動されているデザイン事務所、五割一分の代表 角谷茂氏。長年にわたりミラノサローネを視察している同氏とゆくミラノサローネには多くの学びがありました。
角谷氏とリビタ相澤が今年のサローネを振り返りつつ、日本のライフスタイルを考える、前後編2回に渡るインタビューをご紹介します。
相澤: ミラノサローネは、新緑の美しいミラノの街を駆け巡り(笑)、世界のインテリアデザインの潮流や、衣食住を含めた文化、ライフスタイルを肌で感じる、実に有意義な場ですね。角谷さんはすでに10年以上に渡ってこのサローネをご覧になっていますが、今年の変化といいますか、何か特徴的なものは感じられたでしょうか?
新緑の美しいミラノの街(写真左)、ARMANI BOOK STORE(写真右)
角谷: 特徴というと語弊があるかもしれませんが、2〜3年前からの流れとして、それ以前のミニマル、モノトーンからの反転?、ポップ、カラフル志向を感じています。同時に、極端に振れたデコラティブなモノ、は少し落ち着いた感がありますね。
相澤: 数年に渡って俯瞰してこその流れ、なのですね。確かに、落ち着いた色調の空間にポイントカラーを組み合わせたり、色別の空間コーディネート、多色使いのデザインなどが目につきました。個人的に気になったのは、パーソナルチェア、グレーを背景にしたスタイリッシュな空間提案や、フラグメンタルというか、テーブル、ラグ、フラワーベースなど、小振りなものを複数、変化を持たせつつ組み合わせるスタイリング、ゴールド使いが多用されていたこと、復刻もの、などでした。画一的な傾向というよりは、"自由"とか"ほどよいこなれ感・リラックス感"といった感覚をいろいろなブランドの提案に感じました。
相澤:角谷さんにとって、今年特に良かったもの、感銘を受けたもの、はありますか?
角谷: これまでもそうなのですが、スタルク、ジャスパー、リッソーニ、吉岡徳仁さんや深澤直人さんといった、時代に乗ったデザイナーは各メーカーでの露出も高い。だから、とは一概には言えませんが、彼等が作り上げてくれるプロダクトが、時代を見せてくれているのかもしれない、とも思います。結局は、そんな時代に乗ったデザイナーのプロダクトこそが「輝いて見えるモノ」だと感じています。
僕は評論家ではありませんから、これもあくまでも主観としてですが(笑)、近年も含め今年も、nendoの佐藤オオキさん、パオラ ナヴォーネ、ジェイミー ヘイヨン達のプロダクトが目に止まりました。
MARUNI designed by Jasper Morrison(写真左)、MARUNI designed by Naoto Fukasawa(写真右)
designed by Paola Navone
相澤: 幾つものブランドで引っぱりだこのデザイナーはさすがに存在感がありましたね。
相澤:角谷さんは、サローネではいつもどのようなことに注目し、どのようなことを期待して足を運ばれるのでしょうか?
角谷: 誤解のないようにまずお伝えしておきますが、僕にとってミラノサローネはもはや「地元のお祭り」みたいな感覚になってしまっています。ですから多大な感動はもう無いというのが正直なトコロです。その一方で、足を運べばやはりここにしかない高揚感もあるのです。
ショールームでのVIPイベント 多彩な人々が集う。
角谷: おかしな話ですが、普段は北国富山に居ますので、サローネの時期は地元ではまだ肌寒い日が多く、「春だな」と実感するのはミラノの匂いを嗅いだ時なのですよ(笑)。以前は自分で家具の仕入れもしたりしていましたので、各メーカーの新作や動向をそれこそ血眼になって探していました。今は取り扱いメーカーを絞っていますので、やはりその辺りをじっくり見るように、視点も自ずとシフトしています。あまり目新しいモノよりもトラディショナルなトコロに落ち着いてしまった自分を思い…これが「歳」だと言われれば、甘んじて受け入れるほかありませんが(笑)。
この仕事に従事している限り、生業にしている限りは、年一回の「お祭り」の雰囲気は感じていたいですし、先ほど「甘んじて受け入れる…」と言いましたが(苦笑)、
その反面、「あまりに凝り固まりたくはない自己」に対する、毎年の浄化=リセット期間、でもあります。
街中は深夜まで賑わう
相澤: サローネは色々な意味で"機会"であり"場"ですね。今回、驚くほど多くのクラッシック家具のブランドが、今もひしめき合っているのを目の当たりにして、それだけのニーズ、ライフスタイルが世界には存在することを実感しました。見知っていたはずの日本の家具も、世界中の家具の中で見ると、異なる側面が見えたりもします。こうしたことを知った上でどうするかが大事、ということですね。
こうしたサローネでの体験から得たことで、普段の設計、デザインに活かされていることは?
角谷: 今年も含め、これまでサローネを通じて、本当に多くを学ばせて貰いました。プロダクトは勿論ですが、展示ブース、その設え、グラフィック、街ごとの演出、といった全てにおける圧倒的なデザインが素晴らしい。細かな点では、プロダクトや各ショップのディテール、大観すれば、全てにおいて影響を受けていると思います。
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後編「ミラノサローネから日本のライフスタイルを考える」へ続く
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角谷茂 (五割一分 代表)
五割一分(ゴワリイチブ):1972年 設立。2004年 社名を五割一分とし、富山市磯部町に新社屋・ショップを開設する。2013年 東京・神田神保町に 51% Tokyo を開設。最近では、企業・住宅メーカーの空間・インテリアコンサルティングなども手掛ける。
相澤佳代子(リビタ R100TOKYO シニアディレクター)
「ルクラス代官山」の企画に携わる。今回、リビタのメンバーと共にミラノサローネへ出向いたリアルな体験を企画に生かすべく奮闘中。
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